2023年7月10日月曜日

The Bluest Eye - Toni Morrison/青い眼がほしい - トニ・モリスン

今、アメリカの学校では保護者による過激ともいえる禁書運動が盛んに行われているという。特にLGBTQや人種差別といった内容を含む本がその対象とされているという話だが、そうした禁書のリストの中にトニ・モリスンの「青い眼がほしい」があった。

トニ・モリスンはノーベル文学賞を受賞しており、アメリカ国内外でも著名な黒人女性作家である。私は恥ずかしながらこれまで一度も彼女の作品を読んだことがなかったのだが、この小説の何がいけなくて禁書になったのかを知りたいと思い、図書館の電子書籍を借りて読んでみた。

この小説の主人公ピコーラは11歳の黒人少女で、自身の恵まれない家庭環境や周囲からのいじめは自分の醜い容姿が原因だと思い込み、白人のような青い眼を手に入れればすべてがうまくいくと考えるようになる。しかし、どんなに祈っても青い眼は手に入らないばかりか、事態はますますひどくなる。

ピコーラとは逆に、この小説の語り手である同じく黒人少女のクローディアは白人の存在に非常に強気で、隣家の白人少女や同級生をいじめたい衝動を常に抱えている。クローディアの家でピコーラを一時的にあずかった時に、ピコーラが家にあった牛乳をすべて飲んでしまって、クローディアの母親が激怒する場面がある。当時絶大な人気を博していた白人子役のシャーリー・テンプルがカップに描かれていて、ピコーラはシャーリー・テンプルの姿を見たいがために、何度も何度も牛乳を飲んだのだった。しかしクローディアはみんなに好かれているシャーリー・テンプルを嫌った。大人たちがクリスマスプレゼントとして誇らしげに少女たちに与える白人の人形にも疑問を覚え、破壊してしまう。そしてその衝動が人形だけでなく、白人少女たちにも向けられていることに戦慄する。

ピコーラの父親チョーリーは生まれて間もなく母親に捨てられ、遠縁の伯母に育てられる。愛情を知らずに育ったチョーリーは妻や子供たちにどう接していいのかがわからず、酒に酔った勢いで、彼が知る唯一の愛情表現である性行為を娘のピコーラに強要してしまう。その結果、ピコーラは自分の父親の子供を身ごもることになる。

この小説には数々の社会問題が描かれている。ピコーラが唯一心を開く存在は、彼女が住む建物の上階に住んでいた3人の売春婦たちだった。また、黒人社会の中にも意識的な階級があり、比較的裕福な黒人が貧困層の黒人を差別する描写もある。白人の血を引くムラートの霊媒師は同性愛者であることを隠している。

人種差別、貧困問題、近親相姦、小児偏愛、性的描写、同性愛・・・禁書になる理由を挙げればきりがない。ただ、文学作品として秀逸であることは間違いない。臭いものに蓋をしてしまっていいのだろうかという疑問を抱えずにはいられない。子供を守りたいという気持ちは私にも理解できる。ただ、世の教育ママたちは実際にこの本を最初から最後まで読んだことがあるのだろうか。そして何も感じなかったのだろうか。これを読んで何かを感じられる子供であってほしいとは思わないのだろうか。

切ないエンディングではあるけれど、ピコーラは青い眼を手に入れる。誰よりも青い眼を。

 

青い眼がほしい (ハヤカワepi文庫) by [トニ モリスン, 大社 淑子]


 

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