2023年6月25日日曜日

Killers of the Flower Moon – David Grann /花殺し月の殺人 – デイヴィッド・グラン

今年のカンヌ映画祭にマーティン・スコセッシ監督の同名映画が出展されたというニュース記事を読んで、この本のことを知った。実は前々からアマゾンのおススメ本のリストの中にたびたびこの本が入ってきていたのだが、「Killers of the Flower Moon」というタイトルから犯罪小説や推理小説だと勝手に決めつけていたところがある。Killer(s) of the Flower Moonとは邦題にあるように「花殺し月」という意味で、「Killers of the flower(花殺し)」がMoon(月)にかかっているのだが、私は本を読み始めるまで「Flower Moon(花の月)」のKillers (殺人者たち)という意味だと勘違いしていた。同名映画に関するニュース記事を読んで初めて、この本が実際にあった事件を元にしたノンフィクションであったことを知った。

オクラホマ州のアメリカ先住民部族、オセージ族は5月を花殺し月の頃と呼ぶ。4月になると広大なプレーリー(草原)には一面に小花が咲き乱れる。ところが5月の満月の頃には、背丈のある花や植物がぐんぐん成長して春の小花を覆い、光と水分を奪ってしまう。小花たちは茎が折れ、花弁を散らし、瞬く間に土に帰ることになる。それで5月を花殺し月の頃と呼ぶのだという。

オセージ族も元々は先祖代々の土地で生活していたが、白人たちの西部開拓が進むと、アメリカ政府にあてがわれた土地に移住することを余儀なくされる。ところが、20世紀初頭にその移住先の地下に膨大な量の石油が眠っていることが発覚する。土地を所有するオセージ族のメンバーは誰もが大金持ちになった。ただ、当時のアメリカ先住民は個人の金融資産を自ら管理することができない決まりがあり、保護者制度のもと、地域の白人有力者たちがそれぞれに何人ものオセージ族の資産を管理していた。

そんなとき、あるオセージ一家に次々と怪死事件が起きる。殺害、爆破事件、毒殺といった手口で、一家の成人した娘・モリーただ一人を残して全員が謎の死を遂げた。一族が所有していた権利はモリーがすべて相続した。彼女の夫は白人男性で、彼の叔父/伯父は町の有力者だった。そしてモリーも持病の糖尿病が急に悪化して、危うい状況に陥る。

地元の白人捜査官たちは、先住民の事件を真剣に捜査することもなく、賄賂を受け取るなどして証拠を隠滅することもあった。そんなとき、のちにFBI(連邦捜査局)の初代長官となるフーバーがこの事件を知り、まだ駆け出しだった連邦捜査機関から捜査官を送り、新しい捜査方法で事件を解決する。この事件をきっかけにフーバーの連邦捜査機関は知名度を上げ、これを足掛かりとしてFBIの創設へと進んでいくことになる。

この事件は犯人が逮捕・投獄され、一件落着となり、時を経て、一般の人々が話題にすることもなくなった。しかし、この本の執筆にあたって著者がオセージ族の人々に取材をすると、モリーの家族以外にも相当数の怪死事件が浮かび上がってきた。当時のオセージ族の死亡率はアメリカ国内の平均死亡率をはるかに上回っており、オイルマネーを巡って白人が先住民を組織的に殺害していた可能性があるという。

背丈のある花や植物が小花に覆いかぶさり、光と水を奪い、小花たちは土に帰る。

機会があったら映画も見てみたい。

Killers of the Flower Moon: The Osage Murders and the Birth of the FBI (English Edition) by [David Grann]